第74回正倉院展
第74回 正倉院展
正倉院宝物は、かつて東大寺の倉であった正倉院に収納されていた品々で、その数はおよそ9000件を数えます。正倉院展は、これらの中から毎年60件前後が厳選され公開される展覧会で、今年で74回目を迎えます。今年の正倉院展も例年と同様に、美しい工芸品から、奈良時代の世相がうかがえる文書まで、様々な品が出陳されます。
天平勝宝8歳(756)6月21日、聖武天皇の四十九日に合わせ、后の光明皇后が東大寺盧舎那仏に献納した品々は、正倉院の中でもとりわけ由緒ある宝物として知られています。今年はその中から、繊細かつ華やかな文様が施された漆背金銀平脱八角鏡(黒漆地に金銀飾りの鏡)などの工芸品のほか、黄熟香(蘭奢待)と並んで名香の誉れ高い全浅香(香木)が出陳されます。
聖武天皇と光明皇后の娘・称徳天皇にまつわる銀壺(大型の銀製の壺)も見逃せません。この品は、天平神護3年(767)2月4日、称徳天皇が東大寺に行幸した際の大仏への献納品と考えられ、その破格の大きさもさることながら、表面に施された騎馬人物や鳥獣の細かな線刻文様が目をひく逸品です。
さらに今年は、奈良時代の装いに関連する宝物が多数出陳されるのも特徴です。犀角魚形(腰飾り)や彩絵水鳥形(鳥形の飾り具)は、高貴な身分の人が腰帯から下げたり、衣服に縫い付けたりして用い たと考えられ、わずか数センチの大きさでありながら、魚鱗や鳥翼に施された精密な細工には目を見張ります。また、犀角や象牙といった珍貴な素材を用い、美しく装飾された斑犀把緑牙撥鏤鞘金銀荘刀子(腰帯から下げた小刀)は、実用性をも兼ね備えた装身具の一種として注目されます。
奈良時代は仏教が国家鎮護の役割を担い、法会が盛んに営まれていました。伎楽面力士(楽舞の面)は、天平勝宝4年(752)の大仏開眼会で使用されたことが墨書から判明する品で、表面に施された鮮烈な赤が華やかな法会の情景を浮かび上がらせるようです。粉地彩絵几(献物をのせた台)の鮮やかな彩色文様や、金銅幡(金銅製の旗)に見るバラエティーゆたかな透彫文様もまた、法会のきらびやかさを引き立たせたことでしょう。このほか、空海が本格的な密教を伝える以前の古式の法具・鉄三鈷(古密教の法具)は、厳かな法会の様子を今に伝えています。
これら数々の宝物は、伝統を重んじる人々の弛まぬ努力によって守り伝えられてきました。会場の最後に展示する錦繡綾絁等雑張(東大寺屛風に貼り交ぜられた染織品)は、江戸時代の天保4年(1833)の開封を機に屛風に仕立て整理された奈良時代の古裂の断片で、正倉院における保存整理のさきがけとして象徴的な意義をもっています。これらの染織品を通して、現代に至る宝物伝承の取り組みに思いを馳せていただければと思います。
会期
令和4年(2022)10月29日(土)~11月14日(月)
会場
奈良国立博物館 東新館・西新館
休館日
会期中無休
開館時間
午前9時~午後6時
金曜日、土曜日、日曜日、祝日(11月3日)は午後8時まで
※入館は閉館の60分前まで
出陳宝物
59件(北倉9件、中倉26件、南倉21件、聖語蔵3件)
うち8件は初出陳
公開講座
① 令和4年(2022)10月29日(土) 「正倉院宝物の保存―宝物を覆う―」 髙畑 誠 氏(宮内庁正倉院事務所保存課保存科学室員)② 令和4年(2022)11月12日(土) 「正倉院の仏具―奈良時代の寺院と法会の世界― 」 |
時間:午後1時30分~3時(午後1時開場)
会場:奈良国立博物館 講堂
定員:各90名(事前申込制)※抽選による座席指定制です。
料金:聴講無料(展覧会観覧券等の提示は不要です)。
応募期間:令和4年(2022)9月26日(月)~10月11日(火)必着
主な出陳品
北倉24 白石鎮子 寅・卯
[はくせきのちんす とら・う]
(大理石のレリーフ) 1箇
[出陳番号1]
前回出陳年=昭和62年(1987)
縦21.5 横33.3 厚4.7 重8854
北倉42 漆背金銀平脱八角鏡
[しっぱいきんぎんへいだつのはっかくきょう]
(黒漆地に金銀飾りの鏡) 1面
[出陳番号5]
前回出陳年=平成21年(2009)
長径28.5 縁厚0.6 重2928.6
北倉44 鸚鵡﨟纈屛風・象木﨟纈屛風
[おうむろうけちのびょうぶ・ぞうきろうけちのびょうぶ]
(ろうけつ染めの屛風) 2扇
[出陳番号6]
[鸚鵡]前回出陳年=平成9年(1997)/平成22年(2010)(東京国立博物館)
長163.0 幅56.3 本地長154.6 幅52.5
[象木]前回出陳年=平成7年(1995)/平成22年(2010)(東京国立博物館)
長163.0 幅56.1 本地長154.5 幅52.5
南倉1 伎楽面 力士
[ぎがくめん りきし]
(楽舞の面) 1面
[出陳番号31]
前回出陳年=平成21年(2009)
縦35.9 横23.5 奥行31.8
中倉20 続々修正倉院古文書 第四帙第七巻〔二部大般若経用度申請解案〕
[ぞくぞくしゅうしょうそういんこもんじょ〔にぶだいはんにゃきょうようどしんせいげあん〕]
(写経事業の予算書) 1巻
[出陳番号54]
初出陳
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韓昇《正倉院》再版
川勝守《正倉院鏡と東アジア世界》出版